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ゲシュタルトセラピーが日本で知られるようになったのは、十数年前になる。複雑化する社会の中で、人々がストレスという言葉を頻繁に口にするようになったころである。
もともと、ゲシュタルトセラピーが生まれたのは1960年代のアメリカ。ゲシュタルトセラピーの提唱者であるフレデリック・パールズは、ユダヤ人の精神科医だった。彼自身、自己不全感に悩み、精神分析を6年間受けていた。当時、精神分析を受けられたのは、時間とお金に余裕のある一部の人だけだったが、一般の人にもグループ心理療法が必要とされていた。その流れの中で、パールズと妻ローラはゲシュタルトセラピーを広めていく。それまでの心理学は、生育や幼児期の傷ばかりを重視していたが、ゲシュタルトセラピーでは「今ここ」にポイントをしぼっている。
「A rose is a rose is a rose ― バラの花はバラの花らしくあるときが、一番『バラ』なのだ」
●「どうすべきか」よりも「何をしたいか」
私たちは、乳幼児のころ喜怒哀楽を表に出して、欲求を満たしてきた。そして大人になるにつれ、感情をコントロールできるようになる。ところがこの時期、父親や母親に意味もわからないまま「泣くな」「笑うな」と、不自然に感情を押えられてしまう場合がある。すると、子どもは無意識のうちに、自分が何を感じているか、何をしたいかよりも、何をしたらいいか、どうすべきかばかり考えるようになってしまう。
大人になっても、自分の意見のうち、どこまでが親の価値観を鵜呑みにしただけのもので、どれが自分独自の考えなのか明確な境界線が引けない。
このような、自他の間の境界をはっきりさせて、自分が自分らしくいられるようにするのが、ゲシュタルトセラピーの目的である。
セラピーでは、まず自分が今ここで感じていることに気づくようサポートされる。そして、抑えていた感情や、隠していた弱さを自覚すると、今まで知らず知らずに身につけていたパターン(性格)のうち、不都合な点をクリアできるように、セラピストやグループが励ましてくれる。こうして自分の感情や欲求を理解するとともに、他者の前で表現し、他者からサポートされるという体験を積み重ねて、初めて自我の核といえるものが育ってくる。つまり、自分のいい面、悪い面、全部を含めて自分なんだという実感が得られるようになる。また、自分に対する信頼を培うこともできる。
●現在進行形で語る
ゲシュタルトセラピーの基本精神は、「その人本人しか解決法を知らない。それに気づくようにサポートする」ということだから、自分の本音に気づくのも、自分らしく生きていくのも本人しだいである。
ゲシュタルトセラピーの具体的な技法は、あくまでも、「今ここ」での気づきに焦点を合わせる。過去の話でも、現在進行形で話を進めていき、何を感じているかに注目する。
たとえば、対人関係の問題は、座布団などに相手のイメージを描き、相手に言いたくても言えないでいたことを表現する。こうして、過去のこだわりを少しずつ解消させていく。この場合、セラピストは参加者の身振りや声のトーンに注目し、本人が気づいていない何気ない動作を、わざと誇張してやってみるように指示する。そうすることによって、参加者が今まで知らなかった自分の気持ちを発見することがある。
夢のワークもある。参加者は以前に見た夢を、今見ているように話す。セラピストは、夢を分析したり解釈したりするのではなく、夢を見た本人が、夢のメッセージに気づくように導く。その夢の中に登場する、人物や物になることによって、夢の意味を理解していく。
イメージ、絵、パフォーマンスによって、ゲシュタルトセラピーをふくらませることができる。直接的な体験を大切にするのが、最近の芸術療法などの傾向だが、「なんだかわからないけどよかった」体験に終わらせるのではなく、もう一度言葉によって明確にし、自分自身で自分を発見することでセラピーを終結させるのは、ゲシュタルトセラピーの特徴である。
一般的に、精神分裂病の人や実際に問題行動をとってしまう人には向いていない。問題をもちながらもなんとか社会生活をしている人で、自己表現のへたな人、対人関係や自分の性格の改善を望んでいる人に向いているといえる。

まず、この1冊!
『ゲシュタルト・セラピー』
ジェームス・オールダム、トニー・キー、イゴール・ヤーロ・スタラック著
岡野嘉宏訳
社会産業教育研究所 |
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