インタビュー

ロイス・サンリッチ インタビュー  クリエティブ・ラインティング ワークショップ体験記

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書くこと、物語を語ることは癒しへの旅

『モンキーマインド』は、耳元でこうささやく
『あなたなんかに書けるわけがない』

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書くことが仕事になっている記者にとって、クリエイティブに書くというのは何か夢のような響きをもっている。創造的に書くためのヒントを手に入れられるのかと思うと、期待でわくわくしていた。
八王子の森の中で2泊3日のワークショップ。会場は古い茅葺き屋根の農家を残したものだった。私たちは縁側のある部屋の畳の上で輪になって座った。真ん中ではセージ(浄化のためのハーブ)が焚かれている。参加者は16人。まずは、ひとりひとりの自己紹介から。福祉関係の仕事、養護施設や、老人ホーム、それから幼稚園の保母さんなど、カウンセリングを主な仕事とする人が目立っていた。もちろん小説家志望の人もいる。ただ、自己紹介からわかったことは、ほとんどの人が洗練された文章を書きたいとか、創造的になりたいといった理由ではなく、短い手紙でもいいから自分らしい文章を書きたいと参加をしていることだった。書くことへの苦手意識を手放したいという人もいた。

ロイスからは、書くことはとてもシンプルなのだが、『モンキーマインド』がその邪魔をするという話があった。『モンキーマインド』は耳元でこうささやく『あなたなんかに書けるわけがない』『文章を書くってとても難しいことなのよ』『あなたの言ってることなんて誰も興味をもってくれるわけがないわ』などなど。
私たちを勇気づけ、自由な創造の世界につなげるそう、誰でも聞いたことのあるあのささやき。その否定的な心のささやきはとても大きな声なので、本当の自分の声が入り込むすき間がない。本当の声は『ワイルドマインド』。

私たちを勇気づけ、自由な創造の世界につなげる声。『ワイルドマインド』

ロイスは『モンキーマインド』に自分を支配されないように、つねに書くことに意識を向けることが大切だと話してくれた。書いて書いて書く。私たちがこのワークショップで学ぶことは、書くことにフォーカス(意識を向け、焦点を合わせる)し続けるための手法だった。

ロイス「人生は『モンキーマインド』が考えている以上のものです。そこには勇気があり、恐れもあります。みなさんのなかに深い静かな先生がいます。その先生はみなさんに人生を書き直してもらいたいと思っています。自分の人生を自分で書き直さないと、『モンキーマインド』が書いてしまうかもしれないのです。みなさんが自分の人生を書いて下さい」

『モンキーマインド』が私たちの人生を書いてしまうというのは、私たちが両親から、両親はそのまた両親から受け継いできている無意識の生き方のパターン、考え方のパターンを、また私たちが人生で繰り返してしまうということだと私は感じた。
自分の人生をもう一度、本当の自分の目で見る。深く静かな『ワイルドマインド』の目で。書くことによって、自分の人生のパターンに気づく。すると次には、いままでとは違う物語がやってくるのかもしれない。

ロイス「テーマは『自分の名前』です。なんでも思いつくままに書いて下さい」

私たちはノートに書き始めた。誰もそれをいいとか悪いとか判断する人はいない。ロイスからは次々にテーマが与えられる。『子ども部屋について』『アイスクリーム』。これらはすべて書き始めるためのきっかけで、その先はどんな方向へ進んでいってもかまわない。文法も間違っていてかまわない。美化する必要もない。洗練される必要もない。『ワイルドマインド』は、子どものように野性的で、原始的なのだとロイスはいう。
『自分の名前』について書き始めてからぼろぼろ涙がこぼれていた。なんだかよくわからないけれど、悲しいというよりは自分と向き合っている時間をつくっていることに涙が流れている。書くことを、内側の自分がとても喜んでいる。そして、自分の名前にまつわる家族のさまざまな印象が溢れてくる。書くという行為がこんなにも自分の内側に入ることになるとは、考えたこともなかった。自分をみつめ、表現し、手放す。さまざまなセラピーの手法と同じことがここでも起きていた。

創造的になるには、ただただ書くこと

適度に休み時間があり、みんなが揃うのを待っている間『GOING HOME ENTRY』という時間が設けられている。それは自分の内側に入るためになんでもいいから書くという時間である。クリエイティブに書くには、ただただ書くことなのだ。

ロイス「自分の中にある感情をすべて書きつくしたら、それから初めて創造的に書くことができます。私は10年かかりました」

こうしたリストを基に3日間でかなりの量を書いた。その間、ロイスからはさまざまなアドバイスがある。「あなたの人生を書けるのはあなただけです。あなたの人生の未知の領域に入る前にストーリーを終わらせないように。自分のストーリーの中でも未知の自分の部分に出会うまで書き続けなさい」
「ペンに書かせなさい。自分が考えたこともないような言葉がでてくることもあります」
「あなたの人生はつまらないものではありません」

書いたものを読み、シェアする

書いているだけでなく、参加者が自分の文を読み上げる。書いたものは発表するためのものではないからみんな最初はためらう。それでも、ここでは誰も批判も評価もしないから次第に自分の書いたものを読み上げるようになる。高校生だった自分とおばあさんとの確執を書いたもの。死んでしまった猫のこと。子どもの頃、妹にお菓子をあげた話――小学生の兄が妹にお菓子をあげる。でも、今の自分はなぜそんなことをしたのか思い出せない。ただお菓子をあげた自分とそのときの母の姿と妹が浮かんでいる――そんな体験。決してうまい文章でも、特別な話でもないけれど、それは真実の人生の出来事。読んでいる人の内側で何かが起きているのが伝わってくる。それを聞いて感動している自分がいる。

ロイス「人生はそれを誰かに聞いてもらい、祝ってもらう必要があります」
「心から話し、それを聞くことができるのは大きな特権です」

このワークショップの体験で、文章を書く、それをシェアし共有するということが大きな癒しにつながると感じた。これは、文章がうまくなることよりも私には大きな発見だった。

インタビュー

やりたいことをやることによって、エネルギーが倍増してくる

フィリ この2、3日で私は、とてもリフレッシュした気分です。
ロイス 本当に自分のやりたいことをやり始めると、それはそれ自体がリフレッシュになるんですね。人は休暇に行って帰ってくると、かえって疲れているんです。なぜなら、仕事をして休暇を取って、仕事をして休暇を取ってというパターンを繰り返しているから、疲れてしまうんです。エネルギーがわいてくるのは、本当に自分がやりたいことをやることによってです。やりたいことをやることによってエネルギーが倍増してくるんです。でも、いつも同じことをしているのではなく多様性も必要です。私はアメリカでライティングの仕事をしています。そして、日本に来て同じような仕事をしていますが、そこには別の刺激があります。基本的には自分のやりたいことです。やりたいことをやっていないと休息をとる必要がでてきます。

フィリ ですが、生活のためにお金になることを優先しなければならないということもありますよね。
ロイス お金を稼ぐことができないと、確かに私たちは不安になります。その時にこそ、リスクが必要なのです。リスクを恐れず、自分の人生を掛ければ人生を手に入れることができます。それはジャンプをして私のように大きなリスクを侵す必要があると言っているのではありません。少しずつ変わっていくこともできます。それをしなかったら人生を手に入れることはできません。あなたにとって一番大切なことは何ですか。考えてみて下さい。これかあれかではなく、私たちの個人的なアートをどのように外側に表現していくかというバランスを考えなくてはならないのです。
ほとんどの人は芸術なんてまったく自分の人生とは関係ないと思って生きています。自分には高い使命を持つ価値がないと思っている人もいます。生まれてきたことに何か意味があると思わない人もいます。自分の生命を注ぎ込む何かが人生にあることを知らない人もいます。自分がやりたいこと、価値のあることを自分のためにも、人のためにもできるということを知らない人もいます。ほとんどの人がそうです。
でも、もしあなたが自分を表現したいと思ったら、そのリスクを侵して大胆に勇気をもってやってください。そうすることで、他の人にも道を開いてあげることができるのです。作家は人に関心を持っている人、人類のストーリーに関心をもっている人たちです。

世界は原子で出来ているのではなく、物語でできている。

フィリ 創造的に生きることに意志をもってリスクを侵しなさいということですね、おっしゃっていることはとてもよくわかります。
ところで、このワークショップで私は書くことが癒しにつながるということを体験して驚いています。書くこと、そして自分が書いたものを読み、それを聞いてもらうことが、どうしてこんなにも癒しにつながるのでしょうか。
ロイス 人類はそういうふうに設計されていると思います。アインシュタインはこう言っています。『世界は原子で出来ているのではなく、物語でできている。人間も物語で出来上がっている。そして、その物語が私たちを人間にしてくれる』私たちのストーリーが他の動物との違いを創っているのです。人間という動物は物語を語ります。
かつて、私たち人間は夜、輪になって火を囲んでいました。お互いに人生を語っていたのです。しかし、現代ではそういう伝統から切り離されてしまいました。そして、テレビの周りに集まるようになってしまった。私たちはストーリーを必要としているけれど、その必要性をテレビで満たすようになってしまいました。私たちは物語はテレビから流れてくると思っています。テレビに出られる人だけが、ストーリーを語れると思ってしまっている。現代の普通の人々は物語の飢餓状態にあると思います。自分たちの物語を語り、他人の物語を聞く、そのことでお互いを理解し合う、そういうことに飢えています。
アフリカのある部族にひとつのエピソードがあります。人類学者がこの部族にテレビを持ち込みました。テレビが部族の人々にどういう影響を与えているのか研究したかったのです。1週間ほど彼らは見ていたのですが、その後は見るのを止めてしまいました。人類学者はどうしてなのか、そのわけを長老に聞いて見ました。長老は同じ物語りにあきてしまったと話しました。長老は自分たちが本当に望んでいるのは自分自身のストーリーを語ることだと言いました。彼らにはテレビは退屈なものだったのです。
ワークショップでみんなが語り始めたとき、テレビのドラマよりももっとワクワクするということがわかったでしょう?。

フィリ 人が自分のストーリーを語るとき、それは何かすばらしい芸術ではなくても、ひとりひとりに対する尊敬の念がわいてきますね。
ロイス そうですね。テレビで語られているストーリーはあれほどパワフルではないと思いませんか。そこにはもちろん信頼がなければなりませんが、そこに信頼があるとき、部族的な感覚、あるいは家族としての感覚があります。

フィリ ワークショップの場では信頼がもっとも大切だと感じています。ワークショップリーダーがいなければ、それはとても難しいことではないでしょうか。
ロイス 自分たちでやってみてください。驚くと思いますよ。私はこのクリエイティブ・ワークショップについて何度も何度もやることによって学んできました。でも、思い出してください。それは、私の学びではなくサークルの中にある学びなんです。たとえば、人がそこに聖なる輪を創ることを望むこと。静かに座ること。信頼する姿勢。敬うという姿勢をもってそこにいるとき、そこに起こることは心の癒しなんです。私は何回もやっているのでワークショップで何ができるのかということをみせることができるのです。それぞれのやりかたでファシリテイトすることができます。私たちは物語をみな平等にもっているのです。
こんな話があります。南アフリカのマンデラ大統領は僻地の部族出身で、彼の村では問題が起きると、大きな木の下に集まって話し合いをします。村長は話を誘導し、ただ聞いているだけです。2、3日続けて話し合い、話が尽きる頃にインバシー(IMBANGI)が呼ばれます。インバシーとは即興詩人で、話し合いの内容を詩にしてみんなをほめたたえ、ちょっとからかいながら、詩として記録しその詩は伝承されます。詩が政府の歴史として記録されるのです。インバシーは日常でも仕事をしています。畑や山や働いている人の周りに行って太鼓を打って、その勤労をたたえるのです。
クリエイティブ・ライティングのワークショップでは、私たち全員がインバシーとなります。そして人をたたえるようなインバシーとなって世の中に帰っていくのです。

【ロイス・サンリッチ】
サンディエゴ大学で人間心理学学士号取得。その後仏教芸術協会ナロパにて詩を学ぶ。またプロゴフやボールドウィンらとジャーナリングを学ぶ。全国的に「女性のためのジャーナルライティングの会」を主催。人々の生命奥深いところに常に創造性と豊かな気持ちをかきたてる道具として、またそれらを維持する手段としてジャーナルライティングの指導にあたっている。2年前に来日し、欧米人対象のワークショップを穂高養生園で行なう。

取材協力:ミューズカンパニー

1996年9月-10月 フィリ33号に掲載

この記事を書いたひと
フィリ編集部

フィリ編集部

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フィリは、ニューエイジ・ムーブメント、精神世界、 トランスパーソナル心理学に関するワークショップ、 セミナーのリアルタイム情報誌『FILI』として、1990年~2002年まで定期刊行を続けてきました。 まるでコンサートに行ったり、映画を見るように、 こうしたジャンルのセミナーやワークに気軽に参加できるようになれるといいね、 と精神世界の『ぴあ』を目指して有限会社フィラ・プロジェクツが1990年に雑誌としてスタートしました。
内容は、日本で実際に参加できるワークショップやセミナーなどを紹介する情報に加え、 アメリカ情報、ワークを受けた体験記などのページと、 自分の中心をしっかりもって意識的に生きている人々のインタビュー記事で構成しています。

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