からだ・健康

アレクサンダー・テクニーク もっと楽に気持ちよく~不必要な緊張に気づく~

40507300_m

私たちの心身は本来すばらしい能力があるにもかかわらず、無意識的な習慣や条件づけ、固定観念などにより、それの完全な発揮が妨げられています。アレクサンダー・テクニークは、自分で自分の邪魔をしている不必要な緊張に気づかせ、それをやめていく学習過程です。
自分で自分のじゃまをしているとは、へんな話ですが、はりきりすぎてトンデモナイ失敗をやらかしたり、人生の決定的瞬間にガチガチに緊張して何もできなかったり、失敗しまいとするとかえって失敗するとか、私の弟は運動神経がよくて陸上やアメフトの選手をしていましたが、大切な試合の前になると必ず骨折とか何かの事故を起こして出られなくなるのでした。

舞台で声がでない

テクニークの創始者F・M・アレクサンダー(1869-1955)はオーストラリアのタスマニア島の出身でしたが、シェイクスピア劇が好きで、都会へ出てきて俳優になろうとしました。当時は劇中の有名な台詞を一人芝居風に「朗唱」することがさかんで、彼はこれが得意で、かなり有望視され、憧れのロンドン進出も手にとどきそうになってきました。ところが舞台の上で声がかすれたり、出なくなるということが、起こり始めました。しかもどの医者も手の施しようがなかった。負けん気のアレクサンダーはそれなら自分で治そうと決め、原因の探求にのりだしました。ひとつの手がかりは、この現象は舞台上で起こるが、日常会話では普通に声が出せる。ということは、舞台では彼が何か特別なことをしていて、それが原因にちがいない、と推論しました。
彼は三面鏡の前に立って台詞をしゃべり、その瞬間に自分が何をしているのか見つけようとしました。しかし自分ほどわかりきった、当たり前の対象を観察して、何かに気づくことほど難しいことはありません。とにかく、がまんづよく観察を続けて、ついにわかったことは、台詞をしゃべる瞬間に彼は首を縮めて、頭を後ろに押し下げていた。その結果として、喉頭が圧迫されていた。
それならば、その反対をすればよさそうなものです。首を伸ばして、頭を前と上に持ち上げてみました。これも度が過ぎると、喉頭を圧迫しました。そして喉頭が圧迫されているときは同時に、胸を持ち上げ、背中を狭め、身長が短くなっていました。つまりこれらのことは頭部だけの問題ではなくて、身体の全体的パターンとしてみられるということです。さらに興味深いことには、このパターンは日常会話のときにも実はわずかながら存在し、台詞が難しくなると激しく現われる、という程度の差であるということ。そして「やらなくては」という気持ちに関係している、心理的生理的なもので、いわゆる心身統一体としての自分全体の在り方の問題だということが、わかってきました。
もうひとつ困ったことには、アレクサンダー自身は頭を前と上にいくようにしたつもりであったが、実際に鏡に写ったところでは頭を後ろと下におし下げていた。自分がしていると思っていることと、異なった動きを身体は実際に行なっている! 自分の感覚が信用できない、というショッキングな事実もわかりました。自分で「しよう」としても、望ましい結果にはならない。この袋小路からアレクサンダーはどのように抜け出したのでしょう?
「しよう」とするだけで、いろいろな緊張が起こりますから、ちょっと待ってそれらの緊張をやめていきます。この過程をアレクサンダーは inhibition(抑制)と呼びました。フロイド流の repression(抑圧)とまぎらわしくて誤解されることも多いのですが、フロイドの「抑圧」はいやな反応は思い出さないようにすることだったりしますが、アレクサンダーの「抑制」では、いやな反応も何もかにも、出そうなものはすべてチェックして、不適切なものはやめておきます。そうこうすると自然に適切な反応がでてきます。
一方で、「首はらくなものですから、頭は自然と前と上に向かい、からだ全体がそれについて行きます。背中は幅ひろくなり、長くなります。ヒザは前と外側へ行きたくなります」と思います。この過程をアレクサンダーは direction(指示、あるいは方向づけ)と呼びました。ただそう思うだけで、筋肉でそれをしようとはしないのです。しようとすると、もうひとつの緊張をしてしまうことになり、やり過ぎになります。思うだけでも、筋肉には微細な動きが起こります。アレクサンダーの有名なことばによれば『すべてのことは、それが生理的であれ、心理的であれ、霊的であれ、筋肉の緊張として翻訳されるのです』

わたしたちが何もしないでいると、つまり抑制して不必要な緊張をやめていると、私たちに生来そなわっている“primary control”初原的調整力があらわれてきます。頭が脊椎のてっぺんにめりこむことをやめると、脊椎を下から上がってくるエネルギーが、脊椎のてっぺんから噴出して、頭を気球のようにフワッと浮き上がらせます。あるいは噴水のてっぺんに置かれたボールのように頭は第一頸椎の上でバランスを楽しんでいます。アレクサンダーのレッスンを受けたときに感じる、あのふわふわした浮揚感、スムーズにたやすく軽く動ける感じは、初原的生命力すなわち「プライマリー・コントロール」が干渉されずに動いていることのあらわれなのです。

基本的なレッスン

レッスンではどのようなことをするかというと、はたから見ているとなんの変哲もないから、見学はおすすめできない。生徒さんがただ立っていたり、イスに座っていたりするところに、先生が首や頭や腰や手足にさわって、ここに余分な緊張がありますよ、ということを身体に気づかせてあげるだけだから、外から見てもほとんどわからない。しかし中では大変びっくりするようなことが起こっている。そのことを経験した人は、自分の経験に照らして、他人のこともだんだんにわかるようになる。
基本的なレッスンとして「チェア・レッスン」といわれるものでは、イスから立ったり、座ったりする。しかしここには、アレクサンダー・テクニークの原理がすべて古典的モデル的に含まれている。一見、静止状態であっても、重力に抵抗して何か余分な筋肉活動をしていないか? それをやめると『プライマリー・コントロール』がはっきりしてくる。イスから立とうとするとき、あるいはすわろうとするとき、つい、うっかり習慣的にやってしまうのが、例の首を縮めて頭を後ろに反らすということだ。そうしたくなる傾向を『抑制』して、「首はらくなものですから、頭は自然に前と上に向かい、からだ全体がそれについていきます。背中は幅広くなり、長くなります。ヒザは前と外側へ行きたくなります」という『指示』を思っていると、「よっこらしょ」も何もなしに、立ち上がったり、座ったりしている。この直立と座った姿勢の途中は、ヒザと股関節を曲げたアレクサンダーでいわゆる『モンキー』という運動で経過する。
ヒトは四つ足から、直立することでヒトになったが、重力に対して直立することに未だに充分な適応をしていない。そのために、腰椎、骨盤、股関節のあたりに大変な負担がかかっている。頭・首・胴体の全体的パターンから調整するアレクサンダー・テクニークは人類の進化をすすめる大きな助けになるでしょう。
重力を気にしなくてもよい状態に生徒さんを置いて、すなわち仰向けに寝かせて、身体のいろいろな部分に気づきを高めていくための「テーブル・レッスン」あるいは lying-down work と呼ばれるワークもある。これは先生にやってもらうと、本当によい気持ちなもので、私自身はこのワークの快楽からアレクサンダー・テクニークにはまった。しかし「何もしない」このワークは、自分一人でも床の上に仰向けに寝てヒザを立てて、5分でも10分でも30分でも、自分の状態に気づくことを日常的に実行することができる。
以上のモデル的体験をひとりひとりの日常あるいは職業生活に応用していくのは生徒さん次第ということになる。イスから立ったり座ったりするような些細なことと、自分の人生の遠大な目的、あるいは立ちはだかる問題と見くらべて、そのひらきの大きさに、これではとても対処できない、と思うかもしれない。しかしアルコール依存という場合に何が起こるかというと、まずはボトルに手がのびる。あるいは友人に誘われて賛否を言わなくてはならない。そこに抑制のチャンスがある。あるいは人間関係でうまくいっていない人は、自分について何か言われると反射的に自分の言い分を抑え込むように筋肉を緊張させるかもしれない――これは「抑制」ではなく「抑圧」といったらいいのかな。あるいは反射的に口をついて、あらぬことを口走るかもしれない。いずれもアレクサンダーの応用ならば、反応しようとする自分の筋肉の緊張に気づき、首はらくだと思ってみると、もっとほかの反応の仕方があらわれてくるかもしれない。

「観念」を小さな行動の単位に分割する

最も進んだ抑制の例をあげると、フランク・ジョーンズはA・R・アレクサンダーからレッスンを受けているときに、首のあたりに変な緊張が起こってくるのを感じた。これはなんだろうと調べてみると、どうやら怒りの反応が出かかっていた。それに気づいたので、怒りを不意に爆発させるということをしないで、すますことができた。
あるいは『ボディ・ラーニング』の著者マイケル・ゲルブは何千という大観衆の前でジャグリングのパフォーマンスをすることが決まっていた。その公演の一週間前ぐらいになると、頭を押し下げ、胸と肩を持ち上げる態勢をとりたがっている自分自身に気がついた。調べてみると、これはドッキリ反射の一変形で、アドレナリンを出したがっているのだな、ということがわかった。それで彼は気をつけて、こういう緊張体勢をしないようにした。その結果、当日のパフォーマンスでは全然あがらずに、大成功だった。
アレクサンダー自身の場合でいえば、彼が台詞をしゃべろうとすると、どうしても首を縮めた体勢になってしまった。このまま『目的に走る』ことをしないで、そこで一瞬「いや、しゃべらない」と思って体勢をたてなおす(抑制と指示)。そして「しゃべるという観念」と、それに伴う緊張との連動を断つためには、「観念」を小さな行動の単位に分割する」――「しゃべる」のかわりに、口をあける、息をする、音を出す、ことばにするという『それにいたる手順』に注意を向けることで解決した。これはことばでいえば長たらしくなるが、実際には何秒もかからず、他人からほとんど気づかれない。アレクサンダーからレッスンを受け、抑鬱症と不眠症から解放されたオルダス・ハクスリーは、この考えを思想的に発展させて名著 Ends and Means (目的と手順)を1937年にあらわした。

発展してきたワーク

「チェア・ワーク」のモデル的体験を日常生活に応用するのはわたしたちひとりひとりの責任であるが、そこまでに橋渡しするようにシミュレーションの状況を作ったり、実際の楽器や道具を使いながらする activities 「アクティビティ」というワークもあり、アメリカでマージョリー・バーストウについてアレクサンダー・テクニークを学んだ先生たちが好んでおこなっている。特にグループでやると、ほんのちょっとした自分の使い方の変化が、姿勢、動き、表情、声、肌の変化として大きくあらわれ、誰の目にも見える。他人の演奏、演技、発声、能率、存在感の変化を目の前に見ることで、個人レッスンではわかりにくい自分の変化も容易に察することができる。一方、個人レッスンでは、グループでは届かない、一人一人の無意識的な習慣や条件づけに、回数を重ねて深くワークすることができる。
マージョリー(マージ)・バーストウはF・M・アレクサンダーの第一回目のトレーニング・コースに出て、後に弟のA・R・アレクサンダーの助手を長いことつとめていたが、第二次大戦をへだてて、イギリスの仲間たちが発展させた方法論と、彼女のアプローチは、一見かなり異なったものになっていた。しかし日本では地の利もあって、イギリスの正当派的アプローチも、マージョリーの革新的アプローチも、両方のよいところを統合するような先生たちが入れかわり立ちかわり教えにくるようになった。また、そういった先生たちの指導のもとに、すでにトレーニングを修了した教師たちが10人ほどレッスンやワークショップをおこなっている。

※参考書
『アレクサンダー・テクニーク』ウィルフレッド・バーロウ著(誠信書房)
『アレクサンダー・テクニークの学び方』バーバラ&ウィリアム・コナブル著(誠信書房)
『アレクサンダー・テクニークによる変容の術』グレン・パーク著(新水社、近刊)

【片桐ユズル】
詩、意味論、英語教育など言語に関心があったが、フォークソングや自作詩朗読など存在することによるコミュニケーションの体験を経て、言語化される以前の領域に興味が移ってきた。バイオエネルギー研究所設立メンバー、センサリー・アウェアネス、コンシャスタッチなどのワークショップに参加。日本で最初のアレクサンダー・トレーニング・コースKAPPAを1997年に卒業し、ATI公認教師。京都精華大学教授を昨年退官。
お問い合わせ先 アレクサンダー・アソシエイツ(ATA)
http://www.alexandertechnique.co.jp/

 

http://www.fili.co.jp/therapy/1/gaiyo

 

 

文=片桐ユズル 1998年11-12月 フィリ44号に掲載

 

この記事を書いたひと
フィリ編集部

フィリ編集部

投稿者の記事一覧

フィリは、ニューエイジ・ムーブメント、精神世界、 トランスパーソナル心理学に関するワークショップ、 セミナーのリアルタイム情報誌『FILI』として、1990年~2002年まで定期刊行を続けてきました。 まるでコンサートに行ったり、映画を見るように、 こうしたジャンルのセミナーやワークに気軽に参加できるようになれるといいね、 と精神世界の『ぴあ』を目指して有限会社フィラ・プロジェクツが1990年に雑誌としてスタートしました。
内容は、日本で実際に参加できるワークショップやセミナーなどを紹介する情報に加え、 アメリカ情報、ワークを受けた体験記などのページと、 自分の中心をしっかりもって意識的に生きている人々のインタビュー記事で構成しています。

イルカ結婚相談所

関連記事

  1. image コンティニュアム 〜 コンティニュアムの根本〜 4/29〜、 5…
  2. IMG_2096 アナスタシアとの出会い
  3. therapy 心身の不必要な緊張に気付き、これをやめていく学習「アレクサンダー…
  4. image_large 山梨県の森の中にあるヒーリングルーム「ヒーリングスペース ウィ・…
  5. 20483080_m ロイス・サンリッチ インタビュー  クリエティブ・ラインティング…
  6. 10873832_m スコット・シャノン インタビュー  子どもたちに何が起きているの…
  7. hakomi ホピ族の言葉で「あなたは誰ですか」という意味の心理療法。ハコミセ…
  8. flower フィンドホーン・フラワーエッセンス マリオン・リー Marion…

カテゴリー記事一覧

  1. image_medium

  2. filip_bg_012
  3. eyecatch_meiso
PAGE TOP